真っ赤なスイカ、大粒の巨峰、みずみずしい梨。
その日、わが家の食卓に並んだ果物は、ぜんぶいただきものでした。
スイカは、息子をかわいがってくださる、親と同年代の近所のご夫婦から。
巨峰は、家族ぐるみで付き合いがあり、同じ保育園を利用する友人から。
梨は、息子が生まれた時から成長を見守ってくださる知人から。
6年前、ふにゃふにゃのわが子を抱きながら、親になったばかりの私は、なぜか「この子の家出先をつくらなきゃ」と、思ったのでした。
我の強い子どもだった私は、母親と衝突することが多く、反抗期には家出をしたくて仕方がありませんでした。でも、家を出たところで行き先がない。当時の私は、田んぼのあぜ道に座っているのが精いっぱいでした。
歴史は繰り返すのであれば、息子も遅かれ早かれ、家を飛び出す日が来るはず。そうなった時のために「自宅以外の安心できる場」「親以外の信頼できる大人」がいる環境をつくっておいてあげたい。
そんな願いもあり、ご近所さんや園ですれ違う保護者に、硬い表情のぎこちない挨拶を始めてから6年。気づいたら、血縁関係のない大切なつながりがいくつもできていました。
田舎の濃密な人間関係が苦手で、上京してから何十年もご近所付き合いなんて皆無、会社の飲み会さえ苦手だった人間でも何とかなるものですね。
眠りにつくベッドの中、私の右には息子が、左には息子の親友がごろんと寝ていたり。
わが家でお友達家族と一緒に夕食を食べた後、なぜか息子もお友達の家に“帰ったり”。
チンジャオロースをいただいた翌日には、お礼に少し焦げた餃子を届けたり。
有名店のおいしい食パンを半分分けてもらったら、実家の母特製のシソジュースを持っていったり。
挽き立てのコーヒーを届けて、おかえしにスイカを4分の1もらったり。
「おかえしのおかえし」が続く、遠くて近い関係。
10代や20代の頃には、煩わしく感じていたことが、今はなんとも楽しく、ありがたいです。
『おかえし』(作:村山桂子 絵:織茂恭子/福音館書店)
きつねの奥さんがたぬきの奥さんのところに引っ越しのご挨拶に来たことから、繰り広げられるおかえし合戦。「これは、ほんのつまらないものですが、おかえしのおかえしのおかえしのおかえしのおかえしのおかえしの……」と続きます。
わが家の6歳児は、「おかえしのって何度も言うところで、ごほんをよんでくれる人(保育士さんやママ)の声がかすれるから、この絵本が好きなんだ」そうで……。趣味嗜好は人それぞれですね。