子どもだけでなく、大人をも豊かにする魔法のアイテム「絵本」

よそのお宅の子ども用本棚ってどんな感じ?
普段なかなか目にする機会のない、一般のご家庭のプライベート空間をのぞいてみました。

「あの子の本棚」No.008は、Kくん(2歳)の本棚です。

中古絵本店「OSAGARI絵本」の店主であり編集者でもある母・みずほさん。Kくんが生まれるまで「絵本は子どものためのもの」と思っていたそうです。

──今、改めて感じる絵本の力とは?
母・みずほさん
以前私は、出版社で大人向けの教材や会報誌などの編集をしていました。その後、オンライン古本店を営む夫と出会い、その仕事を手伝うようになったのですが、当初は絵本にそれほど思い入れはありませんでした。本は好きでしたが、絵本は「子どものためのもの」と思っていたのでしょう。

でも、息子が生まれ、絵本が身近になってから、絵本がもつ奥深さを知りました。限られたページ数に、胸に響く言葉、想像をかき立てるイラストが凝縮された世界。自分一人で黙読するときと、声に出して読むときでもまた、感じ方が異なります。絵本は、子どもだけでなく、大人をも豊かにする魔法のアイテムなのだと実感しました。


中古絵本店「OSAGARI絵本」

──お子さんのために購入した絵本で印象に残っているものはありますか。
松谷みよ子さんの『いないいないばあ』(絵:瀬川康男/童心社)です。

息子の6か月検診の時に、「読み聞かせ」について教えていただけるブースがありました。当時、すでに絵本関連の仕事を始めていたものの息子にどんな絵本を与えたらいいのか、よくわからなくて。とりあえず、おすすめと言われるものを入手しました。

早速、家に帰って息子のそばで読み聞かせを始めると、興味を示しズリバイで近づいてきます。そして、次の瞬間、べろべろ~と舐めて(笑)。その後も、少し目を離したすきにカバーがビリビリビリなんてこともあり、親になって初めて「絵本のカバーは外して読むもの」ということを学びました(笑)。

早くから読み聞かせ会にも行っていましたが、息子はうろうろ立って歩くなど、絵本を聞くどころではありませんでした。親としては「絵本に興味がないのかな……」と少し寂しかったのですが、いつからか息子も絵本が大好きになっていました。一見興味がなさそうに見えても、当初から息子なりに“聞き耳”を立てていたのかもしれませんね

今となっては、修復跡だらけの『いないいないばあ』を見て、「これ、Kちゃんが赤ちゃんのときにビリビリしちゃったんだよね?」なんて、自分で言っています。

──お子さんのお気に入りの絵本は何ですか。
『ゴムあたまポンたろう』(作・絵:長新太/童心社)
『へんなおにぎり』(作・絵:長新太/福音館書店)
『ちょっとそこまでパンかいに』(作:山下明生 絵:エム・ナマエ/サンリード)

息子の絵本は、季節ごとに私が追加したり、絵本屋さんで息子に選ばせたり、夫が買ってきたりします。本棚は家族それぞれが好きなものでごちゃまぜになっているのですが、なかでも長新太さんの絵本は、母子ともにお気に入りです。長先生のイラストやストーリーは好みが分かれるところだとは思いますが、息子は大好きなようです。

最近、『へんなおにぎり』を息子に読み聞かせたら、5回連続で「もっかい!!」と。じーっと聞き入った後、自分でおもむろに絵本を開き、「へんなおにぎり……ちょうちんたしゃく!」と、読み聞かせをしてくれました。まだ文字は読めませんが、ナンセンスな空気感はしっかり伝わってきました(笑)。

『ちょっとそこまでパンかいに』は、たくさんの本が並ぶ私の職場に遊びに来た息子が、絵本棚の中から自分で選んだものです。私自身は選ばないタイプの絵本だったのですが、何度も読むうちに好きになりました。息子は、寝る前にこの絵本を選ぶことが多いのですが、この本、「ちょっとそこまで」と出かけた主人公が、自転車で太陽まで到達してしまうという予想外のファンタジー。主人公がお母さんに持って帰った「おひさまパン」の香りを想像しながら眠りにつくのは、なんだか幸せだなあと。

──みずほさんご自身が好きな絵本は何ですか。
『あなたが うまれた ひ』(作・絵:デブラ・フレイジャー 訳:井上荒野/福音館書店)です。

友人や知人へのプレゼント用もあわせるともう何冊買ったかわかりません。最初に手にした日本語版が素晴らしかったので、後から英語のオリジナル版まで買い求めたほどです。もともと英語で書かれたものなので、英語で読んだらもっとこの絵本の良さを感じることができるかもしれないと思ったのですが、あら不思議。日本語版のほうが、より深く心に染み入るのでした。私の英語力云々もあるのでしょうが(笑)井上荒野さんによる翻訳も含めて、この絵本が好きなのだと思いました。静かに、でも力強く、言葉が胸に響いてきます

この絵本では、もうすぐ「あなた」が生まれることを知った地球の住民たち──北のトナカイから南のウミガメ、地球、月、太陽、森、空気、そして引力まで(!)──が、どれほど「あなた」の誕生を待ち望んでいたか、という物語から始まります。息子とお膝で読んでいると、いま腕の中にいる息子の存在に胸が熱くなり、それから、保育園のお友だち、仕事で出会うたくさんの子どもたち、今日街ですれ違った赤ちゃん、その存在すべてが愛おしくてたまらなくなる。また、生まれてうん十年の私も、あの人も、みーんな地球のみんなに待ち望まれた「あなた」なのだと、優しい気持ちになります。仕事で行き詰った時にも、よくこの絵本を読み返します。

──お子さんとの絵本の時間で、印象的なエピソードがありましたら教えてください。
保育園から帰った息子に、「保育園楽しかった?」と聞くと、「今日ね、○○公園にお散歩行ってね、○○君と滑り台で遊んだの……それから、公園に……公園に……おっぱいを出した大男がいたの!!」と。

一瞬「えっ!?」と頭がパニックになりましたが、すぐに「それからね、おにとかー、おばけもいたの!」と続いたので、はは~ん、と。すべて、前夜に読んだ、『ゴムあたまポンたろう』の登場人物だったのです(笑)。

子どもは、リアルとファンタジーを織り交ぜて、時に大人をドキッとさせるようなことを言いますよね。それが楽しくもありますが、冷や汗をかかされることも多々ありです。

──お子さん用の本棚づくりで意識していることは何ですか。
絵本棚は、キッチン寄りのリビングに置いています。部屋が狭いので、置き場所に選択肢がなかったというのが実のところですが、結果的に、キッチンで料理をしながら子どもの遊びを見守ることができてよいです。

棚は子どもの手が届く高さで、基本的に上段が絵本、下段がおもちゃですが、よーく見ると、夫の愛読書『dancyu』が右端にお行儀よく並んでいます。気が付いたらこうなっていたのですが、これも「食育」の一環ということで(笑)

絵本とおもちゃはとても親しい関係にあるので、これらは意図して並べています。実際、息子はおもちゃと絵本をその時々でいったりきたり、時には絵本とおもちゃを並べて遊ぶことも。先日は、マグネットブロックで「タラップ車できたよ!」と見せにきてくれたので、乗り物辞典を引っ張り出し、一緒にタラップ車の写真を探しました。すると、今度はタラップ車以外の写真も気になりだし、夢中になって辞典に見入っていました。

──みずほさんさんご自身が手元に置いておきたい絵本は何ですか。
実はあまりないのです。私が子ども時代に読んでいた絵本は、母がすべて近所の子や親せきの子にあげたり、引っ越しの際に処分してしまったりしたそうで、1冊も残っていません。

だから、中古絵本にかかわる仕事を始めて以来、「子ども時代の絵本が実家にあって~」なんて話を聞くと、「いいなあ。うらやましいなあ」と思っていました。

でも、ひとつ気づいたこともあります。それは、絵本そのものがなくなっても、その時に記憶した匂いや音、さまざまな感情、母のぬくもりは、ずっと私の中に残っているということ。むしろ、物が手元にないぶん、そうした記憶を忘れまいとしているのかもしれません。だから、今気に入っている絵本や本はたくさんありますが、私自身は、時がきたら手放せるものばかりです。でも、息子がそう思うかどうかはわかりません……。最近は、「それもこれもKちゃんの!」と、何もかも所有したいブームのようです。

幸運なことに、私は仕事を通してたくさんの絵本に触れることができます。しかも、中古絵本の流通という、新品の絵本屋さんとはまた違ったやり方で。一般的に、新古書を購入する際、「安いから」「状態がいいから」といった条件で選ぶ方が多いかと思いますが、私は中古絵本の流通を通して、それだけではない価値観を伝えたいと思っています。

中古絵本店「OSAGARI絵本」とは?
あげる喜び、もらう喜びを体感するOSAGARI絵本ワークショップ

「想像力」と「創造力」を刺激する、親子参加型の絵本ワークショップを企画・運営する団体です。子育て期の女性たちが教育やビジネスの現場で培ったスキルや経験を生かして、親と子の学びの場をつくっています。
くまのこ絵本工房 : http://www.facebook.com/kumanokoehon/